
脳梗塞後遺症の方の書字動作獲得って難しくないですか⁈

段階的に進めれば大丈夫ですよ!
脳梗塞発症後の患者様(BrsⅤ〜Ⅵ)にとって、『書字』は社会復帰への重要なステップです。
そこで今回は、鉛筆を使った上肢機能へのアプローチ方法を徹底解説します。
結論:鉛筆の滑らかな運筆を評価・訓練することで、手指の巧緻性と実用的な書字能力を同時に向上させることができる。
段階的なプログラムにより、最終的には自主訓練への移行も可能です。
なぜ、鉛筆操作が重要なのか?

なぜ鉛筆なんですか?

社会復帰に直結するからです!
鉛筆操作が重要な理由は以下の4つです。
社会生活に必須の動作
書字はサインや記入など、社会生活で避けて通れない動作です。
銀行での手続き、役所での書類記入、仕事での記録など、書けることが自立への第一歩となります。
完璧でなくても、自分の名前が書けるだけで患者様の自信につながります。
高度な巧緻性の指標
鉛筆操作には以下の要素が必要です。
- 三指つまみ(母指・示指・中指)の安定性
- 手内在筋の細かなコントロール
- 手関節の適切な固定と動き
これらが統合されて初めて、滑らかな運筆が可能になります。
視覚-運動協調の訓練
書字動作は目で見て、手を動かすという協調性が必要です。
特に、線をなぞる・形を描くといった課題は、フィードバックが明確で、自己修正しやすい利点があります。
認知機能との連携
文字を書くという行為は、単なる運動だけでなく言語・記憶・注意といった認知機能も使います。
総合的なリハビリテーションとして、非常に価値が高い活動です。
対象者の見極めと判断基準

どんな方が対象になるんですか?

BrsⅤ〜Ⅵの方が対象です。
麻痺側での鉛筆操作を目指す方
- Brs:Ⅴ〜Ⅵ
- 手指の分離運動が可能
- 三指つまみができる
- 退院1〜2ヶ月前の時点でBrsⅣ〜Ⅴであれば挑戦の価値あり

退院時期を見据えた判断が大切です。

無理に麻痺側にこだわらず、実用性を優先することも重要ですよ。
利き手交換を検討する方
- 重度の麻痺(BrsⅢ以下)
- 退院まで時間が限られている
- 非利き手の潜在能力が高い
評価のポイント
最も重要なのは「滑らかに描けているか」です。
以下を観察します。
- 線の震えやギザギザ
- 筆圧の一定性
- 速度のコントロール
- 代償動作の有無
段階的な訓練プログラム
ステップ1:横線・縦線(基礎)
【方法】
- A4用紙を準備する
- なるべくまっすぐな線を書くように促す
【評価ポイント】
- 始点と終点で止まれるか
- 一定の速度を保てるか
- 筆圧は適切か
【期間の目安】
1〜2週間(毎日15分程度)
ステップ2:丸(曲線の導入)
【方法】
- 丸を書く
- 時計回り・反時計回りの両方を練習
- 大きな丸や小さな丸を書いてみる
【評価ポイント】
- 滑らかな曲線か
- 始点と終点がつながるか
- 手首の動きは適切か

丸を書いている時の手首や肘・肩の動きも見ておく必要があります。
ステップ3:三角・四角(角の処理)
【方法】
- 角で一度止まることを意識
- 各辺を丁寧につなげる
【評価ポイント】
- 角の処理が適切か
- 辺は真っ直ぐか
- 図形は閉じているか
ステップ4:ひらがな・カタカナ
【方法】
⒈書きやすい文字から開始
- カタカナ
- ひらがな
⒉なぞり書きから模写へ
⒊最終的に自由記載へ
【評価ポイント】
- 文字として認識できるか
- バランスは適切か
- 実用的な速度で書けるか

ここまで来たら、自主訓練に移行してもOK!
訓練時の重要なポイント

気をつけることって何かある?

滑らかさは最重視する必要がありますね!
滑らかさの評価と改善
セラピストが最も注目すべきは「滑らかさ」です。
滑らかに書けているということ=鉛筆の先端で紙を感じ取れている
ということになります。
速度の調整
- 速すぎると雑になる
- 遅すぎると震えやすい
環境設定の工夫
机と椅子の高さ
- 肘が90°になる高さ
- 足がしっかり床につく
紙の固定
- 滑り止めマットを使用
- 非麻痺側で軽く押さえる
鉛筆の選択
- 太めのグリップ付き
- 2B〜4Bの柔らかめ
代償動作への対応
よくある代償動作
- 肩甲帯の過度な挙上
- 体幹の側屈
- 手関節の過度な屈曲
これらが見られたら、姿勢を修正する必要がありますが、作業に集中している場合は声かけを行う必要はありません。
評価の一つとしておきましょう。
自主訓練への移行
自主訓練移行の判断基準
- 基本図形が滑らかに描ける
- 簡単な文字が書ける
- 疲労が少ない
- モチベーションが高い
自主訓練メニューの例
日記を書く
- 1日3行から開始
- 徐々に量を増やす
なぞり書き帳
- 市販の練習帳を活用
- 好きな言葉や詩を書く
実用的な練習
- 自分の名前・住所
- 家族の名前
- 買い物リスト
利き手交換の判断
交換を検討するタイミング
- 退院まで2ヶ月以上
- BrsがⅢ以下で改善が見込めない
- 患者様自身が希望している
非利き手訓練のコツ
焦らない
- 利き手の7割程度を目標に
- 完璧を求めない
実用性重視
- サインができればOK
- 読める字であれば十分
まとめ
鉛筆を使った上肢機能訓練のポイントをまとめます。
【3つの重要ポイント】
- 滑らかさを最重視:震えのない運筆が目標
- 段階的プログラム:線→丸→図形→文字の順序
- 実用性を考慮:退院時期を見据えた判断
鉛筆操作は、単なる機能訓練を超えて社会参加への架け橋となります。
患者様の「また字が書けた!」という喜びを共有しながら、丁寧に進めていきましょう。
ぜひ、明日からの臨床で試してみてください。
また、質問等はまこまる公式LINEで受付けています。
よくある質問(FAQ)
- 書字動作の前には徒手での介入は必要ですか?
初めは必ず徒手で筋緊張の調整を行います。
それから少しづつ徒手での介入を減らしてもいいです。
しかし、徒手ありきでの書字動作の獲得になってはいけないので、必ず次のステップを踏まえて徒手を行うようにしましょう。
- 震えが止まらない場合はどうしますか?
まず原因を評価します。
筋緊張が高い場合は、鉛筆を持つ前に手指のリラクゼーションを行います。
不安が原因なら、より太い線から始めて成功体験を積みます。また、手首を軽く支えることで安定する場合もあります。
- 左片麻痺で元々右利きの場合は?
BrsⅤ〜Ⅵであれば、右手での書字を行い、左手は押さえ手として使用するようにします。
能力が高くても麻痺手にずっと注意を向けておく必要があるので難しい方もいます。
- 高次脳機能障害がある場合の工夫は?
とにかく失敗しないことに配慮して介入します。
もしも、失敗してしまうとエラーが起きてその後の動作が全てエラーになってしまいます。
- いつまで続ければ良いですか?
実用的な書字(名前・住所など)ができれば、セラピストの介入は終了で良いでしょう。
その後は自主訓練として継続してもらいます。
ただし、仕事で細かい字を書く必要がある方は、より長期的なフォローが必要です。
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