
母指の動きを引き出したくて…

ハサミ操作が効果的だよ!

ハサミって危なくないですか?

正しく使えば最高の訓練道具だよ!
上肢機能訓練で、「もっと実用的な動きを練習したい」と思ったことはありませんか?
日常生活で使う道具を訓練に取り入れることで、患者様のモチベーションも上がりやすくなります。
そこで今回は、ハサミを使った上肢機能へのアプローチ方法を徹底解説します。
結論:ハサミの「チョキチョキ」という感覚フィードバックとリズミカルな動きが、手指の動きを高めます
普段どこにでもある、ハサミが治療道具になるので必見です!
なぜ、ハサミ操作が手指機能に効果的なのか?

ハサミの何が良いんですか?

紙を切る際のリズミカルなチョキチョキがいいんです。
紙を切る際のリズミカルなチョキチョキは、紙を切る際に力を入れるのに対して、刃を進める際には、一定以上力を抜く必要があります。
この繰り返しで紙を切るという活動が成り立つのですが、脳卒中後の患者さんでは結構、難易度の高い課題となっています。
また、このハサミ操作は両手動作となります。麻痺側(利き手)でハサミを把持し、非麻痺側(非利き手)で紙を把持します。
非麻痺側で姿勢保持を固定代償している方にとっては非麻痺側の固定を外せる良い機会にもなります。
以下にハサミ操作が効果的な理由を並べました。
両側の手の協調性が必要
ハサミ操作には利き手と非利き手の協調が不可欠です。
- 利き手:ハサミを操作
- 非利き手:紙を持ち、角度を調整
この両手の協調動作は、日常生活動作の基本となります。
リズムとタイミングの学習
ハサミ操作は一定のリズムが重要です。
「チョキ、チョキ、チョキ」という規則的な動きはかなり高度な手指機能を必要とします。
リズムが崩れると上手く切れないため、自然とタイミングを意識するようになります。
視覚的な成果が明確
切った紙の状態で、成功・失敗が一目瞭然です。
ハサミ操作は単純動作ながら、ここが明確なのが良いところです。
- まっすぐ切れた → 成功
- ガタガタになった → 要改善
この明確なフィードバックが、次への改善意欲につながります。
ハサミ操作の基本原則

どんなことに気をつければ?

4つの原則があるよ!
1. 体の正中線上で行う
ハサミ操作は必ず体の正中線上で行います。
理由は以下の通りです。
- 両手の協調がとりやすい
- 視覚的に確認しやすい
- 体幹の安定性が保たれる
- 左右差の影響を最小限にできる

正中線から外れると、急に難しくなります。
2. リズムを最重視する
ハサミ操作で最も重要なのはリズムです。
- 一定の速度を保つ
- 「チョキ!チョキ!チョキ!」という掛け声に合わせる
- リズムが乱れたら一度停止
リズムがうまくいかない = 失敗と考えましょう。
3. 麻痺側使用時は誘導が必須
麻痺側でハサミを使う場合、セラピストの適切な誘導が不可欠です。
誘導のポイント
- 手関節の安定を保つ
- 母指の動きをサポート
- 過度な力が入らないよう調整
4. 段階的な難易度設定
簡単な課題から始めて、徐々にレベルアップします。
後述する難易度調整を参考に、適切な課題を選択しましょう。
対象となる患者様

どんな方に適してますか?

幅広く使えるけど条件があるよ!
適応となる方
- Brs:Ⅲ〜Ⅴ(手指)
- 母指の対立運動が可能な方
- 基本的な握り動作ができる方
- 認知機能が保たれている方
たまに、手指の筋緊張が高い方にもハサミ操作を行うことがありました。
しかし、本人様の精神状態等を考慮する必要があります。
注意が必要な方
- 重度の感覚障害がある方
- 注意障害が著明な方
- 衝動性が高い方
- 失行がある方

失行を含めて高次脳機能障害を合併している方には行わない方が良いかもしれません。
そういった方にはリスクの少ない課題を行う方が良いでしょう。


ハサミを使った段階的介入方法

具体的にどう進めますか?

レベル別に説明するね!
レベル1:直線切り(基礎)
【使用する紙】
- 厚めの画用紙
- 幅2〜3cmの短冊状
【方法】
- 紙に太い直線を描く
- 線に沿ってゆっくり切る
- 「チョキ、チョキ」とリズムを声に出す
【ポイント】
- 最初は5cm程度の短い線から
- 成功体験を重視
- リズムが乱れたら一度停止
レベル2:曲線切り(応用)
【使用する紙】
- 普通の厚さのコピー用紙
- 大きな円や波線を描いたもの
【方法】
- ゆるやかな曲線から開始
- 紙を持つ手の角度調整を意識
- リズムを保ちながら方向転換
【ポイント】
- 両手の協調性が必要
- 非利き手の動きも重要
- 急なカーブは避ける
レベル3:形の切り抜き(発展)
【使用する紙】
- 新聞紙や広告
- 簡単な図形(○△□)を描いたもの
【方法】
- 大きめの図形から開始
- 角の部分で一度停止してOK
- 徐々に複雑な形へ
【ポイント】
- 完璧を求めない
- 「だいたい切れた」でOK
- 楽しみながら行う
麻痺側で行う場合の誘導テクニック

麻痺側の誘導が難しいです…

コツを教えるよ!
誘導の3つのポイント
1. 手関節の安定化
- セラピストは手関節をやや背屈位で保持
- 過度な掌屈を防ぐ
- 安定した土台を作る
2. 母指の動きをサポート
- 母指の対立位を保持
- 開閉のタイミングを誘導
- 力の入れすぎに注意
3. リズムの共有
- 「せーの、チョキ、チョキ」と声かけ
- 患者さんの呼吸に合わせる
- 無理のないペースで

誘導は「一緒に動く」イメージです。患者様の動きを感じながら、最小限のサポートを心がけましょう。
誘導量の調整
- 初期:ほぼ全介助での誘導
- 中期:部分的な誘導(手関節のみ等)
- 後期:見守りレベル
- 最終:自立
段階的に誘導を減らしていくことが重要です。
リズム訓練の重要性

リズムってそんなに大切?

成功の鍵はリズムだよ!
なぜリズムが重要なのか
ハサミ操作において、リズムの乱れ = 失敗です。
リズムが保てないと
- 切り口がガタガタになる
- 力の調整ができない
- 疲労が早い
- 両手の協調が崩れる
なぜリズムが悪くなるのか?
ハサミで紙を切った感覚がフィードバックされていないからです。
紙を切った時の『チョキッ』という感覚がフィードバックされることで、次の『チョキッ』に向かうことができます。
そう考えるとハサミで紙を切るという活動はハサミの刃でどれだけ知覚探索活動ができるかということになります。
注意事項と安全管理

安全面が心配です…

しっかり対策すれば大丈夫!
使用するハサミの選択
- 安全なハサミを使用
先端が丸いもの、刃が鋭利すぎないもの - サイズの確認
手の大きさに合ったもの
環境設定
- 十分な作業スペース確保
- 滑り止めマットの使用
- 良好な照明
- 他の患者様との距離
リスク管理
- 使用前後の本数確認
- 疲労のサインを見逃さない
- 集中力の低下時は中止
- 保管場所の管理徹底
まとめ
ハサミを使った上肢機能訓練のポイントをまとめます。
【3つの重要ポイント】
- チョキチョキ感覚を大切に:複合的な感覚入力で脳を刺激
- リズムが成功の鍵:一定のリズムで協調性向上
- 正中線上で実施:両手の協調と体幹の安定を促進
ハサミは身近な道具ですが、適切に使えば優れた訓練道具になります。
患者様の「できた!」という達成感を大切にしながら、段階的に進めていきましょう。
ぜひ、明日からの臨床で試してみてください。
また、質問等はまこまる公式LINEで受付けています。
\ 質問受付中!/
よくある質問(FAQ)

現場の疑問に答えるよ!
- 左利きの場合は、どうしますか?
左利き用のハサミを用意しましょう。通常のハサミだと刃の重なりが逆になり、切りにくくなります。また、誘導の位置も左右反対になるので注意が必要です。
- ハサミ操作が全くできない方には?
まず、ハサミを使わない練習から始めます。道具を使うことが難しいのであれば、手を使った課題に変更しましょう。
- どのくらいの頻度で行えば良いですか?
週3〜4回、1回15〜20分程度が目安です。集中力が必要な課題なので、長時間は避けましょう。また、手の疲労に注意しながら行ってください。
- 自主訓練として行っても良いですか?
十分に練習して安全性が確認できれば可能ですが、リスクが高い活動なので自主訓練として行うことはお勧めできません。
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